「せっかく採ったのに、また辞めてしまった」。教育にかけた時間を思うと、肩を落としてしまいますよね。中小企業の経営者・現場リーダーの方から、よくうかがう悩みです。
先にお伝えしたい結論があります。早期離職を防止する鍵は、入社後の対策ではなく入社前のミスマッチをなくすことにあります。辞める芽は、入社する前にまかれていることが多いからです。
参考までに、厚生労働省の調査では新規学卒就職者の約3割が入社3年以内に離職しています(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」2024年公表)。これは特別な会社の話ではなく、どこでも起こりうる現実です。
本記事では、早期離職が起きる理由、主な離職理由ベスト3、採用前から始める5つの打ち手、入社後30日の設計、やりがちな失敗を順に解説します。採用に割ける時間も人も限られている中小企業の前提で書きました。お役に立てればうれしく思います。
早期離職はなぜ起きる?原因は「入社後」より「入社前」
早期離職の多くは、入社後のできごとだけが原因ではありません。入社前の期待と現実のズレ、つまりミスマッチが根にあります。まずは、この見方の転換から始めましょう。
数字で見る 早期離職
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」2024年公表(離職率)/理由・打ち手の数は本記事の整理による
「すぐ辞める若者」と決めつけない
早期離職を語るとき、「最近の若者はすぐ辞める」と片づけたくなる気持ちは分かります。けれども、そこで思考が止まると打ち手が見えません。本当に若者の問題なのか、一度問い直してみてはどうでしょうか。
早期離職対策の専門家も、「今どきの若者は本当にすぐ辞めるのか」と疑問を投げかけています。辞めるのには、たいてい本人なりの理由があります。個人のせいにしない視点が、改善の出発点です。
離職は入社前のミスマッチで決まりやすい
早期離職の芽は、入社前にまかれます。求人票で良いことばかり伝える、面接で実態を語らない。そうしたズレが、入社後の「思っていたのと違う」を生むのです。
私自身、定着の相談を受ける中で、辞める原因が入社前にあったケースを何度も見てきました。入社後の研修やフォローを厚くしても、入口でずれていれば追いつきません。定着は採用の段階から始まっている。この前提を共有しておきましょう。
早期離職の主な理由ベスト3(データで見る)
早期離職には、繰り返し現れる理由があります。人間関係、仕事内容のギャップ、労働条件の3つが代表的です。やみくもに対策する前に、自社の離職がどれに当たるかを見極めましょう。
早期離職の主な理由ベスト3
自社の離職がどれに当たるかを見極めてから対策します
相談できる人がいない、孤立感。仕組みで手を打てる領域です。
「聞いていた話と違う」。入社前のリアルな情報提供で防げます。
残業・休日・評価のズレ。最初から正確に伝えることが信頼の土台。
参考:早期離職白書ほか実務者の解説をもとに整理(順位は傾向を示すイメージ)
理由1:人間関係・職場になじめない
最も多い理由の一つが、人間関係です。職場になじめない、相談できる人がいない。そうした孤立感が、辞める決断の引き金になりがちです。これは多くの職場で起こりうる、根の深いテーマ。能力の問題ではなく、関係の問題であることが少なくありません。
裏を返せば、ここは仕組みで手を打てる領域です。気軽に話せる相手を最初に用意するだけでも、孤立はやわらいでいきます。新人にとって「聞ける人がいる」という事実は、想像以上に心強いものです。
理由2:仕事内容が聞いていた話と違う
次に多いのが、仕事内容のギャップです。「聞いていた業務と違う」「思ったより地味だった」。入社前の説明と現実がずれていると、不信につながるのです。早期離職白書を扱う解説でも、こうしたギャップが理由の上位に挙げられています。
防ぐには、入社前に仕事のリアルを正直に伝えることが欠かせません。良い面と大変な面の両方を見せる。そのほうが、結果的に長く働いてもらえるでしょう。
理由3:労働条件・待遇のギャップ
3つ目が、労働条件や待遇のギャップです。残業の実態、休日、評価の仕組み。入社前のイメージと違うと、不満が積もっていきます。条件面は、後から取り返しにくい部分でもあるのです。
最初から正確に伝えることが、信頼の土台です。なお、募集や選考での条件は、年齢・性別などによる差別とならないよう配慮が必要です。職業安定法や男女雇用機会均等法の趣旨を踏まえて記載しましょう。
早期離職を防止する5つの打ち手(採用前〜入社後)
早期離職の防止は、入社後の対策だけでは間に合いません。採用前・選考中・入社後の3段階で打ち手を組み立てます。ここからは、今日から動ける5つの手順を紹介します。
早期離職を防止する5つの打ち手
採用前 → 選考中 → 入社後の3段階で組み立てる
採用前
打ち手1リアルな情報を伝える
良い面も大変な面も率直に(RJP)
選考中
打ち手2期待値をすり合わせる
求めることのズレを面接で確認
入社後
打ち手330日の受け入れ設計
誰が何をいつ教えるか決める
入社後
打ち手4定期的な1on1
不安を小さいうちに拾う
入社後
打ち手5サインを見逃さない
口数・遅刻・相談の変化に気づく
打ち手1:採用前に「リアルな情報」を伝える
最初の打ち手は、採用前にリアルな情報を伝えることです。仕事の良い面だけでなく、大変な面も率直に共有します。一見不利に思えますが、覚悟して入ってもらえるぶん、入社後のギャップは小さくなるのです。
このリアルな情報提供は、専門用語でRJP(Realistic Job Preview)とも呼ばれます。RJPとは、仕事の現実をありのまま事前に見せる手法のことです。飾らない情報こそ、ミスマッチを減らす近道です。
打ち手2:選考で期待値をすり合わせる
2つ目は、選考の段階で期待値をすり合わせることです。候補者が何を求めているか、自社が何を提供できるか。両者のズレを面接で確かめておけば、入社後のすれ違いを防げるはずです。
ここでの対話は、見極めであると同時に、相互理解の場でもあります。採用要件の作り方は、別記事の「採ってもすぐ辞める」を防ぐ採用要件の作り方もあわせてご覧ください。
打ち手3:入社後30日の受け入れを設計する
3つ目は、入社後30日の受け入れ設計です。最初の1か月は、定着を左右する勝負どころ。何を、いつ、誰が教えるかを決めておくだけで、新入社員の不安はぐっと和らぎます。
行き当たりばったりの受け入れこそ、孤立を生む一番の原因。詳しい設計は入社後30日のオンボーディング設計が参考になります。
打ち手4:定期的な1on1で不安を早く拾う
4つ目は、定期的な1on1です。1on1とは、上司と部下が1対1で話す短い面談のこと。週に一度でも、5分でも構いません。不安や違和感を、小さいうちに拾うことが目的です。
大切なのは、評価の場にしないことです。話を聞き、寄り添う。安心して弱音を言える関係が、離職の歯止めです。
打ち手5:辞める前のサインを見逃さない
5つ目は、辞める前のサインに気づくことです。口数が減る、遅刻が増える、相談が来なくなる。こうした変化は、SOSのサインかもしれません。
早く気づけば、面談で立て直せる場合があります。サインの見つけ方は早期離職の本当の原因チェックリストにまとめています。
入社後30日が勝負|オンボーディングと期待値すり合わせ
早期離職の防止で最も効くのが、入社後30日の設計です。最初の1か月で「ここでやっていけそう」と感じてもらえるかが、定着を大きく左右します。受け入れの勘どころを整理しましょう。
最初の1か月で安心感をつくる
入社直後の新入社員は、誰でも不安を抱えています。だからこそ、最初の1か月は安心感づくりに集中します。初日の受け入れ準備、業務の段取り、声かけの頻度。どれも特別な費用はかかりません。
新入社員フォローの大切さは、人事担当者向けの解説でも語られています。最初の数週間の丁寧さが、その後の定着を決めると言っても大げさではありません。
孤立させない関係づくり
安心感の核になるのが、孤立させないことです。気軽に質問できる先輩を決めておく、ランチに誘う、雑談の時間をつくる。小さな働きかけが、職場になじむ後押しです。
人間関係は、放っておいて深まるものではありません。最初の橋渡しを会社側が用意する。その一手間が、定着の景色を変えていきます。
たとえば、入社初日に「この人に何でも聞いていい」という相手を一人決めておく。それだけで、新入社員の心細さはぐっと軽くなります。制度を整えるより前に、こうした日々の配慮から始めてみてはどうでしょうか。
やってしまいがちな早期離職対策の失敗
良かれと思った対策が、かえって離職を招くこともあります。研修の詰め込みや、精神論での引き止めが典型です。ここでは、先回りで失敗例を共有します。
やりがちな早期離職対策の失敗と代わりの一手
×研修を長期化・詰め込みすぎる
早く戦力にと大量の知識を一度に。負担になり、かえって離職を招きます。
代わりに:量より順番。消化できるペースで、必要なことから少しずつ。
×精神論・根性で引き止める
「気合いが足りない」「3年は続けろ」。不安に向き合えず、心を遠ざけます。
代わりに:何に困っているかを聞く。仕組みと対話で向き合う。
研修を長期化・詰め込みすぎる
ありがちな失敗が、研修の詰め込みです。早く戦力にしたい一心で、大量の知識を一度に教える。これが負担になり、かえって離職を招く失敗事例も報告されています。
研修は量より順番です。本人が消化できるペースで、必要なことから少しずつ。焦らず段階を踏むほうが、結果的に早く育ちます。
精神論や根性で引き止めようとする
もう一つの失敗が、精神論での引き止めです。「気合いが足りない」「3年は続けろ」。そうした言葉は、本人の不安に向き合っていません。むしろ、心を遠ざけてしまうのです。
辞めたい気持ちの裏には、具体的な理由があります。根性論でふたをするのではなく、何に困っているかを聞く。仕組みと対話で向き合う姿勢が欠かせません。
サインに気づき、一人で抱えない|相談という選択肢
早期離職の対策は、現場任せにすると属人化します。辞める前のサインに気づく仕組みと、迷ったときの相談先を持っておくと安心です。一人で抱えないことが、何より大切です。
一人で抱えず、採用と定着の悩みから整理する
早期離職は原因が見えにくい問題。話すことで論点が見えてきます
辞めた人の共通点から次に活かす
離職が起きたとき、落ち込むだけではもったいないものです。辞めた人に共通点はなかったか、振り返ってみましょう。同じ時期、同じ部署、同じ理由。パターンが見えれば、次の一手につながるはずです。
辞めた人の共通点から学ぶ視点は、辞めた人の共通点から学ぶミスマッチ採用を繰り返さない方法でも整理しています。過去を責めるためではなく、未来を変えるために使う。その姿勢が次の定着につながります。
一人で抱えず、採用と定着の悩みから整理する
最後にお伝えしたいのは、一人で抱え込まないことです。早期離職は、採用と定着が絡み合い、原因が見えにくい問題。第三者に話すだけで、論点が整理されることもあります。
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よくある質問(FAQ)
Q. 早期離職とは、入社後どのくらいの期間を指しますか?
明確な定義はありませんが、一般には入社からおおむね3年以内の離職を指すことが多いです。厚生労働省の調査でも新規学卒者の3年以内離職が一つの目安として用いられています。特に最初の数か月から1年以内の離職は、ミスマッチが原因のことが多いとされます。
Q. 早期離職の防止は、何から始めればよいですか?
入社後の対策より先に、採用前の情報提供から見直すのがおすすめです。良いことだけでなく、仕事の大変な面も正直に伝えると、入社後のギャップが減ります。そのうえで、入社後30日の受け入れを設計すると効果が高まります。
Q. 中小企業でもできる早期離職対策はありますか?
あります。費用をかけなくても、入社初日の受け入れ準備、定期的な1on1での声かけ、孤立させない関係づくりなど、今日から始められる打ち手が中心です。大がかりな制度より、日々の小さな配慮が効きます。
Q. 研修を充実させれば早期離職は減りますか?
必ずしも減りません。研修を詰め込みすぎると、かえって負担になり離職を招く失敗例もあります。大切なのは量ではなく、本人の不安に寄り添い、無理なく職場になじめる設計です。
Q. 辞めそうな社員のサインには、どんなものがありますか?
口数が減る、遅刻や欠勤が増える、相談が来なくなる、といった変化が代表的です。サインに早く気づけば、面談で不安を拾い、対応できる場合があります。気づいたら、責めずにまず話を聞くことが大切です。